最終更新日:2026年7月19日
結論を先に
日本居住者がハワイ不動産を保有する場合、賃貸収入には原則30%の源泉徴収、売却時には連邦のFIRPTA15%とハワイ州のHARPTA7.25%が課されます。いずれも確定申告により精算・還付が可能ですが、ITIN(納税者番号)がなければ手続きが進みません。
この記事では、購入前に確認すべき点と、すでに保有している方が直面する税務・管理上の論点を、具体的な数値とともに整理します。
この記事の対象
- ハワイ不動産の購入を検討している日本居住者
- すでにハワイ不動産を保有し、賃貸運用や売却を考えている方
- 相続・承継を含めた出口を検討している方
米国市民・グリーンカード保持者は税務上の取扱いが大きく異なるため、本記事は日本居住の非居住外国人(NRA: Non-Resident Alien)を前提としています。
第1部:購入前に確認すべきこと
1. 「値下がりしにくい」は「必ず儲かる」ではない
ハワイ不動産の価格が比較的安定しているのは、島嶼という物理的な供給制約、国際的なブランド力、米国法に基づく市場の透明性によるものです。これは下方硬直性を意味しますが、上昇を保証するものではありません。
実務でよく見る失敗は次の3つです。
- 表面利回りだけで判断し、HOA・固定資産税・保険料・管理会社手数料を織り込んでいない
- 為替リスクを軽視している(ドルベース黒字・円ベース赤字は普通に起きます)
- 売却時の源泉徴収と税務コストを購入時に計算していない
2. HOA(管理費)は日本の感覚と桁が違う
ハワイのコンドミニアムで最も見落とされるのがHOA(Homeowners Association Fee)です。
- ワイキキ・アラモアナ周辺の中〜高級物件で、月額700〜1,500ドル程度は珍しくありません
- 築年数の経過とともに上昇する傾向があります
- 大規模修繕時に**Special Assessment(特別徴収)**が発生し、一時金として数千〜数万ドル請求されるケースがあります
購入時のシミュレーションでは現行のHOAを使いますが、10年保有するなら上昇と特別徴収を前提に置くべきです。
3. 短期賃貸(バケーションレンタル)の規制
オアフ島では、30日未満(条例改正の経緯により90日未満とされる区域もあります)の短期賃貸に厳しい規制があります。
- 短期貸しが可能かどうかは建物ごと・区域ごとに異なります
- 違反時の罰金は日額ベースで課され、非常に高額になります
- 売主や仲介業者の説明が正確でないケースが実際にあります
「Airbnbで回せます」という説明を受けた場合、必ず物件のCondo Document(ハウスルール)と、ホノルル市郡のゾーニング区分の両方を確認してください。規制は改正が続いている分野なので、購入時点の最新情報を自分で確認する必要があります。
4. 有名エリア=良い投資とは限らない
カカアコ、アラモアナ、ワイキキは人気エリアですが、投資適性は別問題です。新築高級物件はHOAが高く、利回りより資産保全に向いた性質を持ちます。
「自分が住みたい物件」と「投資として成立する物件」は一致しないことのほうが多い、というのが実感です。
第2部:保有中に発生する税務
5. 賃貸収入には30%の源泉徴収がかかる
日本居住者(NRA)がハワイで賃貸収入を得る場合、原則として総収入額の30%が源泉徴収されます。ここで重要なのは「総収入」に対してかかるという点です。経費を差し引く前の家賃全額が対象になります。
ただし、**Net Election(IRC §871(d))**を選択すれば、不動産所得を米国内事業所得(ECI)として扱い、経費控除後の純額に対して累進税率で課税される方式に切り替えられます。減価償却費や管理費を経費計上できるため、多くのケースで有利になります。
この選択は申告書に所定のステートメントを添付して行います。何も手続きをしなければ自動的に30%源泉徴収の扱いになるため、知らずに損をしている保有者は少なくありません。
▶ 詳しくはこちら:賃貸収入30%源泉徴収を回避するNet Election|IRC§871(d)の選択と手続き
6. GET(一般消費税)とTAT(過渡的宿泊税)
ハワイ州特有の税として、以下の2つがあります。
- GET(General Excise Tax):事業収入に課される税。オアフ島では郡税を含めて4.5%。日本の消費税と異なり、売上に対する事業者側の税であり、賃貸収入も対象です
- TAT(Transient Accommodations Tax):180日未満の短期宿泊提供に課される税。州分10.25%に加え、郡分(オアフ島は3%)が上乗せされます
長期賃貸(180日以上)ならGETのみ、短期賃貸ならGET+TATの両方が必要です。これらは連邦所得税とは全く別の申告であり、州のライセンス登録と定期申告が求められます。
管理会社が代行しているケースもありますが、納税義務者はあくまでオーナーです。申告漏れの責任は所有者に帰属します。
ハワイのGETとTAT|賃貸オーナーが必要な登録・申告と、利回りへの影響
7. 日米両国での申告が必要
日本居住者は全世界所得課税のため、ハワイの不動産所得も日本で申告します。流れとしては次のようになります。
- 米国でForm 1040-NRを提出し、米国側の税額を確定させる
- 日本で確定申告を行い、米国で納付した税額を外国税額控除として調整する
ここで注意が必要なのは、日米で減価償却の計算方法が異なる点です。米国では住宅用不動産は27.5年の定額法ですが、日本では建物の構造と経過年数に応じた耐用年数を用います。同じ物件でも両国で所得金額が一致しないため、外国税額控除の計算は単純な引き算になりません。
8. 減価償却は「魔法」ではない
減価償却による節税は魅力的に語られますが、次の点を理解しておく必要があります。
- 償却した分だけ簿価が下がるため、売却時の譲渡益が膨らみます
- 米国では償却分に対してDepreciation Recaptureとして最大25%の税率が適用されます
- キャッシュフローと課税所得は別物です(税金は減ったが手元は苦しい、という状態が起きます)
減価償却は「節税」ではなく「課税の繰り延べ」だと捉えるのが正確です。
第3部:売却時に何が起きるか
9. FIRPTA(連邦)とHARPTA(ハワイ州)の二重の源泉徴収
ここが最も見落とされやすく、最も金額インパクトの大きい論点です。
外国人が米国不動産を売却する場合、**売却代金(譲渡益ではありません)**に対して以下が源泉徴収されます。
- FIRPTA(連邦):売却価格の15%
- HARPTA(ハワイ州):売却価格の7.25%
合計で**売却価格の22.25%**が、決済時に手元に入らず源泉徴収されます。100万ドルで売却すれば、約22万ドルが差し引かれる計算です。
重要なのは、これが譲渡益ではなく売却総額に対してかかるという点です。損失が出る売却であっても、いったんは徴収されます。
FIRPTAとHARPTA|ハワイ不動産売却で22.25%源泉徴収される仕組みと減額申請の実務
10. 源泉徴収額を減らす手続きがある
この22.25%は最終税額ではなく前払いです。確定申告により精算されますが、還付までに1年以上かかることも珍しくありません。
キャッシュフローを重視するなら、事前に減額申請を行う方法があります。
- 連邦:Form 8288-B(Withholding Certificateの申請)— 実際の税額が15%を下回ることを立証すれば、源泉徴収額を実額ベースまで引き下げられます
- ハワイ州:Form N-288B — HARPTAについての同様の減額申請
いずれも決済前に申請し、承認を得る必要があります。決済後では間に合いません。売却を決めた時点で動き出すべき手続きです。
11. ITINがないと手続きが止まる
ITIN(Individual Taxpayer Identification Number)は、SSNを持たない外国人のための納税者番号です。法人の場合はFEIN(EIN)が必要になります。
ITINがないと、以下がすべて滞ります。
- Form 1040-NRの提出(賃貸収入の申告)
- Form 8288-Bによる源泉徴収の減額申請
- 源泉徴収された税額の還付
ITINの取得には通常7週間から数ヶ月かかります。売却が決まってから申請したのでは、減額申請の期限に間に合いません。購入時点で取得しておくのが実務上の正解です。
ITINの取得方法|ハワイ不動産オーナーが購入時に取るべき理由と申請手順
12. 相続まで視野に入れる場合の論点
米国不動産は、所有者が死亡した際に米国の遺産税(Estate Tax)の対象となります。ここで注意すべきは、非居住外国人の基礎控除額です。
米国市民・居住者の基礎控除が1,000万ドル超であるのに対し、非居住外国人の控除は6万ドルにとどまります。日米相続税条約により一定の按分控除が受けられる余地はありますが、条約の適用には申告が必要です。
また、米国ではプロベート(検認手続き)が必要となり、遺産の凍結期間が長期化します。この回避策として法人所有やトラストの活用が検討されますが、それぞれ日本側の税務(外国子会社合算税制など)に影響するため、単純な優劣はありません。
個人で買うか、法人で買うか
よく聞かれる質問ですが、一般解はありません。判断に影響する要素は次のとおりです。
- 保有期間(短期の売却益狙いか、長期保有か)
- 日本側の所得水準と、他の不動産所得との損益通算の可否
- 相続・承継を想定するか
- 法人設立・維持コスト(州への年次報告、会計・税務申告の実費)
「節税になると聞いたから法人で」という判断は、日本側の税制(特に居住者による外国法人の支配に関する規定)を考慮していないことが多く、結果的に不利になるケースがあります。
購入前チェックリスト
- HOAの現在額と、過去5年の推移・特別徴収の履歴を確認したか
- 短期賃貸の可否を、Condo Documentとゾーニングの両方で確認したか
- ITIN(または法人ならEIN)の取得計画があるか
- 賃貸開始時のGET/TATライセンス登録の担当を決めたか
- Net Electionを行うかどうか、税務アドバイザーと合意したか
- 売却時に22.25%が源泉徴収されることを、資金計画に織り込んだか
- 日米双方の申告を誰が担当するか決まっているか
- 出口(いつ・誰に・いくらで売るか)を言語化できるか
最大のリスクは「理解しないまま進めること」
ハワイ不動産投資で最も多い失敗は、市場でも税制でもなく、判断を他者に委ねきってしまうことです。
不動産会社は売買を、管理会社は運営を担当しますが、日米双方の税務を含めた全体最適を考える立場の人は、意識的に配置しない限り存在しません。日本の税理士は米国税務を扱わず、米国のCPAは日本側の申告を見ないのが通常です。この間に落ちる論点が、後から効いてきます。
不安がゼロになるまで検討する必要はありません。ただし、何がリスクで、なぜそうなるのかを自分の言葉で説明できる状態にしてから決める。それだけで、避けられる失敗はかなり多いはずです。
参考条文・出典
- IRC §871(d) — 不動産所得の純額課税選択(Net Election)
- IRC §897, §1445 — FIRPTA(外国人による米国不動産処分に係る税制)
- IRC §168 — 減価償却(住宅用不動産27.5年)
- IRC §2101, §2102 — 非居住外国人に対する遺産税
- Hawaii Revised Statutes §235-68 — HARPTA
- Hawaii Revised Statutes §237 — General Excise Tax
- Hawaii Revised Statutes §237D — Transient Accommodations Tax
- 日米租税条約 / 日米相続税条約
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務助言ではありません。税率・控除額・規制内容は改正される可能性があるため、実行にあたっては最新の法令および専門家の確認を行ってください。
この記事を書いた人
水上 彰(Akira Mizukami)
米国公認会計士(USCPA)、IRS登録税務士(EA)、税務修士(LL.M. in Taxation, Boston University)。PwCニューヨーク事務所にて国際税務実務に従事した後、現在は再生可能エネルギー事業会社の日本法人にて財務・税務責任者を務める。日米クロスボーダー課税、プロジェクトファイナンス、不動産投資を専門とする。
より実務的な内容はnoteにて公開しています。
