最終更新日:2026年7月20日
結論
ITIN(個人納税者番号)は、SSNを持たない外国人がIRSに申告を行うための番号です。日本からの申請では取得までに通常7週間から数ヶ月かかります。
ハワイ不動産のオーナーにとって重要なのは、ITINがなければ賃貸収入の申告も、売却時の源泉徴収の減額申請も、還付の受領もできないという点です。売却が決まってから申請したのでは間に合いません。
購入時、あるいは賃貸開始前に取得しておくのが実務上の正解です。
ITINとは何か
ITIN(Individual Taxpayer Identification Number)は、9桁の税務上の識別番号です。SSN(社会保障番号)の取得資格がない人が、米国での納税義務を果たすためにIRSが発行します。
形式は「9XX-XX-XXXX」で、必ず9から始まります。SSNと同じ桁数ですが、用途は税務申告に限定されます。
ITINでできること
- 連邦所得税の申告(Form 1040-NR等)
- 源泉徴収の減額申請
- 還付の受領
- 米国の金融機関での口座開設(機関によります)
ITINでできないこと
- 米国での就労
- 社会保障給付の受給
- 移民法上の身分の証明
つまり、純粋に税務のための番号です。取得したからといって米国での権利が発生するわけではありません。
個人か法人かで番号が変わる
不動産を保有する主体によって、必要な番号が異なります。
- 個人名義で保有 → ITIN
- 米国法人(LLC・Corporation)名義で保有 → EIN(Employer Identification Number)
EINは法人向けの番号で、ITINとは申請方法も所要期間も全く異なります。EINはオンライン申請が使えず外国人法人は郵送またはFAXになりますが、それでも通常数週間で取得できます。
なお、シングルメンバーLLC(構成員1名の有限責任会社)を使う場合、税務上は「Disregarded Entity(無視される事業体)」として扱われることが多く、法人のEINとは別に、オーナー個人のITINも必要になるケースがあります。ここは構造によって変わるため、設立前に確認が必要です。
いつ取得すべきか
結論から言えば、不動産を購入した直後です。
理由は3つあります。
理由1:賃貸開始時点で必要になる
賃貸収入がある年は、翌年に Form 1040-NR を提出します。ITINがなければ申告書を受理してもらえません。
30%の源泉徴収を純額課税に切り替える Net Election も、申告書に添付する形で行うため、ITINが前提です。
理由2:売却時には間に合わない
前回の記事で触れたとおり、売却時の源泉徴収22.25%を減額するには Form 8288-B を決済前に提出し、IRSの審査(約90日)を通す必要があります。
このForm 8288-BにはITINの記載欄があります。ITINの取得に数ヶ月かかることを考えると、売却を決めてから申請したのでは、減額申請そのものが成立しません。
ハワイの取引は契約から決済まで45〜60日が一般的です。ITIN取得(2〜3ヶ月)+減額申請の審査(3ヶ月)を足すと、逆算して半年前には動き出している必要があります。
理由3:申請時期による混雑
IRSの処理は、確定申告シーズン(1月〜4月)に大幅に遅延します。この時期の申請は、通常より1〜2ヶ月余計にかかることがあります。
避けられるなら、5月から11月の間に申請するのが実務的です。
申請の方法
ITINの申請は Form W-7 で行います。単独では提出できず、原則として税務申告書または例外事由の証明書類を添付する必要があります。
方法1:確定申告書と同時に提出
最も基本的な方法です。Form 1040-NR とForm W-7 をセットでIRSに郵送します。
賃貸収入があり、初めて申告するタイミングであれば、この方法が自然です。
方法2:例外規定(Exception)を使う
申告書がまだない段階でも、一定の事由があればITINを申請できます。不動産オーナーに関係するのは主に次の2つです。
Exception 3:住宅ローン利息の報告
米国の金融機関から住宅ローンを借りている場合、金融機関が発行するForm 1098の関係でITINが必要になります。金融機関からのレターを添付します。
Exception 4:不動産処分に係る源泉徴収
FIRPTAの対象取引がある場合の例外です。売買契約書等を添付して申請します。ただしこれは売却が具体化してからの手続きなので、事前取得としては使えません。
Exception 1(d):不動産賃貸収入の源泉徴収
管理会社等の源泉徴収義務者から、源泉徴収が行われることを証明する書類を得られる場合、これを添付して申請できます。賃貸開始時の事前取得としては、この経路が実務的です。
提出先
書類はテキサス州オースティンのIRS ITIN Operation宛に郵送します。日本からの国際郵便、またはFedEx等の国際宅配便を使います。
身分証明書類の壁
ITIN申請で最も厄介なのが、身分証明書類の要件です。
原則:パスポート原本の提出
Form W-7 には、身元と外国人であることを証明する書類を添付します。パスポートは単独で両方を満たす唯一の書類なので、通常はパスポートを使います。
問題は、原本またはIRSが認める認証済コピーが必要という点です。単なるコピーや公証人による認証では受理されません。
パスポート原本を郵送すれば、審査中(数ヶ月)は手元にパスポートがない状態になります。海外渡航の予定がある人には現実的ではありません。
代替手段1:発行機関による認証コピー
パスポートの発行機関、つまり日本の場合は外務省または在外公館による認証を受けたコピーであれば受理されます。
ただし、日本の外務省がこの形式の認証を行うかは窓口によって対応が分かれるため、事前確認が必要です。
代替手段2:CAA(Certifying Acceptance Agent)を使う
これが最も現実的な方法です。
CAAは、IRSと契約して申請者の身分証明書類を確認する権限を与えられた個人・法人です。CAAを通せば、パスポート原本を郵送する必要がありません。
CAAが本人確認を行い、Certificate of Accuracy(W-7 COA)を発行して申請書に添付します。
日本国内にもCAAとして登録されている税理士事務所・会計事務所があります。手数料は事務所により異なりますが、パスポートを数ヶ月手放すリスクと比べれば、多くの人にとって合理的な選択です。
CAAの一覧はIRSのウェブサイトで国別に公開されています。
代替手段3:在日米国大使館・領事館
一部の在外公館でITIN申請のサポートを行っている時期がありましたが、対応は変動します。訪問前に必ず確認してください。
更新(Renewal)にも注意
ITINは永久に有効ではありません。
連続する3年間、一度も税務申告に使用されなかったITINは失効します。
例えば、ハワイの物件を購入してITINを取得したものの、Net Electionにより赤字申告が続き申告義務がないと判断して申告を止めていた場合、3年後にITINが失効している可能性があります。
売却時になって「ITINは持っている」と思っていたら失効していた、というのは実際に起こるトラブルです。
失効したITINの再有効化には、改めてForm W-7 の提出が必要で、新規取得と同程度の期間がかかります。
対策:所得の有無にかかわらず、毎年申告書を提出しておく。赤字でも申告することで、ITINは有効に保たれます。損失の繰越が認められるケースもあるため、申告自体にメリットがあることも多いです。
よくある失敗
失敗1:管理会社任せにしていた
管理会社が源泉徴収と納付を代行しているケースでも、ITINの取得はオーナー自身の責任です。「管理会社がやってくれていると思っていた」という誤解は頻繁に起きます。
失敗2:配偶者の分を取っていない
夫婦共有名義で購入した場合、両方にITINが必要です。片方だけ取得して、売却時に手続きが止まるケースがあります。
失敗3:名義とITINが一致していない
パスポートのローマ字表記と、不動産登記上の氏名表記が異なると、IRSの照合で問題が生じます。購入時の書類作成段階から、パスポート表記に統一しておくのが安全です。
準備チェックリスト
- 保有形態(個人/法人)を決定したか
- 共有名義の場合、全員分のITINを申請する計画があるか
- パスポートの有効期限に余裕があるか
- CAAを使うか、原本郵送にするか決めたか
- 申請時期が確定申告シーズン(1〜4月)を避けているか
- 不動産の登記名義とパスポート表記が一致しているか
- 取得後、毎年の申告を継続する体制があるか
まとめ
ITINは、取得そのものは難しい手続きではありません。問題は必要になったときには手遅れになっているという時間軸のズレです。
- 賃貸開始時に必要
- 売却時にはもっと必要(減額申請の前提)
- 取得に2〜3ヶ月
- 3年使わないと失効
この4点を踏まえると、購入直後に取得し、以後は毎年申告して有効性を維持する、というのが唯一の合理的な運用です。
不動産の購入手続きに追われている時期に、税務番号の申請まで手が回らないのは自然なことです。しかし、ここを後回しにしたことで売却時に数十万ドル単位の資金拘束が生じるのは、避けられる失敗です。
参考
- IRS Form W-7 および Instructions for Form W-7
- IRS Publication 1915(Understanding Your IRS ITIN)
- IRC §6109 — 納税者番号の要求
- Treas. Reg. §301.6109-1
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務助言ではありません。IRSの手続き・要件は変更される可能性があるため、実行にあたっては最新の情報および専門家の確認を行ってください。
この記事を書いた人
水上 彰(Akira Mizukami)
米国公認会計士(USCPA)、IRS登録税務士(EA)、税務修士(LL.M. in Taxation, Boston University)。PwCニューヨーク事務所にて国際税務実務に従事した後、現在は再生可能エネルギー事業会社の日本法人にて財務・税務責任者を務める。日米クロスボーダー課税、プロジェクトファイナンス、不動産投資を専門とする。
より実務的な内容はnoteにて公開しています。
