【図解】米国会計基準でのリース会計とは?
~非上場企業にも影響、いま改めて理解したいASU 2016-02(ASC 842)のポイント~
はじめに
2022年度から、米国会計基準(US GAAP)におけるリース会計ルールが大きく変わりました。これまでは主に上場企業が対象でしたが、非上場企業もすべてのリース契約について、借入と同様に「資産」と「負債」を計上する必要があります。
この変更により、企業はまるで資産を購入するために借入をしたかのような処理が求められるようになりました。すでに初年度の導入を終え、「もう慣れた」と感じている方も多いかもしれません。しかし、新たなオフィス契約や社用車のリースを開始するたびに、新たな会計処理が必要になります。
本記事では、そんなリース会計の基本から、実務で役立つExcelでの現在価値計算方法まで、図とともにわかりやすく解説します。
1. リース会計の基本:資産と負債を計上する
新基準では、すべてのリース契約に対して、以下のような会計処理が必要です。
- **Right-of-Use資産(ROU資産)**として計上
- リース負債として計上
- 毎月、減価償却費および利息費用として認識
これにより、貸借対照表上にリースのインパクトが明示されることになります。
2. リースの2分類:ファイナンスリース vs オペレーティングリース
リース契約は、以下2種類に分類されます。
ファイナンスリース(以下のいずれかに該当)
- 所有権が借り手に移転
- 購入オプションがあり、行使が合理的に見込まれる(例:90%以上の支払額)
- リース期間が耐用年数の大部分を占める(例:75%以上)
- 現在価値が資産の公正価値の大部分を占める(例:90%以上)
- 特殊資産であり再利用が不可能
オペレーティングリース(上記以外)
※どちらのリースでも初期の資産・負債計上処理は同じです。
3. 会計処理の違い:仕訳で見る2つのリース
処理内容ファイナンスリースオペレーティングリース初期仕訳ROU資産とリース負債(現在価値)を計上同左毎月償却費+利息費用を計上リース費用(定額)を計上支払時リース負債の返済処理同左
例:4年間の機械リース。1年ごとの支払いで1年目のリース料が$100,000、2年目が$110,000、3年目が$125,000、4年目が$145,000。4年間での合計支払いリース料は$480,000で割引率が7.2278%。リース料総額の現在価値が$400,000であった場合、ファイナンスリースとオペレーティングリースの仕訳は下記となります。

* リース負債 $400,000 x 7.2278%
** 使用権資産(ROU)$400,000 of ROU÷4年(リース期間)
***割引前のリース料総額、$480,000÷4年(リース期間)
リース開始時に計上する使用権資産とリース負債はリース料総支払額の現在価値となります。現在価値は、将来のお金の価値と現在のお金の価値は異なる、という考えに基づいています。例えば、銀行に$1,000預けたとします。そして1年後、利息がついて$1,100になったとします。1年後の$1,100は現在に直すと$1,000である、と考えられます。つまり、1年後の$1,100の現在価値は$1,000となります。よってリース開始時に将来のリース料の総額を現在の価値に割り引いて使用権資産とリース負債で計上する必要になります。この現在価値計算は毎月のリース支払額、支払回数、利率がわかればエクセルで計算できます (“PV” という機能を使います)。
また、上記計算は複雑に見えますが、エクセルを利用して使用権資産とリース負債の償却表を作成することできます。この償却表には毎月のリース資産の償却、利息の計上、リース支払い時の負債の減少の数字が表示されますので、毎月行うべき仕訳がわかります。ですのでリース開始時に償却表を作ることが重要です。
4. 割引率の決め方:リスクフリーレートの活用
リース負債の計算には「割引率」が必要です。以下の優先順位で決定します。
- 契約上の明示利率
- 借入金利(同様の条件での銀行金利)
- 非上場企業は例外的に「リスクフリーレート」(米国債利回り等)を使用可能
利率の入手が難しい場合は、米国国債(U.S. Treasury)の利回りを活用できます。
5. 実務Tips:Excelでの現在価値(PV)計算
リース負債=将来の支払額の現在価値。
Excelでは「PV関数」を使えば簡単に求められます。

6. 1年未満のリースは例外も
次の2条件を両方満たす場合、資産・負債計上は不要です。
- リース期間が12ヶ月以内
- 契約更新せず、実際に1年以内で終了する見込み
※更新オプションが実質的に行使される場合、短期リースと見なされませんので注意。
おわりに
ASC 842の導入は、非上場企業にも大きなインパクトを与えました。導入初年度を乗り越えた今こそ、再び会計処理の原理を振り返るチャンスです。特に新規リース契約の際には、毎回しっかりと計算と記帳が必要です。
「Excelでの償却表作成」「リスクフリーレートの取得」など、今後の実務に役立つ知識として、ぜひこの内容を活用ください。